「伊吹先生、舞先輩のお姉さんって、どんな人かご存知ですか?」
放課後の伊吹先生の特別指導の時間に、俺は舞先輩の姉に対して質問してみた。屋上での舞先輩の言葉に何度か出た姉の存在。俺が小さい頃から舞先輩と面識のある伊吹先生なら何か知っているだろうと、俺は訊ねてみた。
「ごめんなさい、私もよく知らないの」
しかし、伊吹先生の口から出た応えは、俺の期待するものではなかった。
「知らないんですか?」
「ええ。私も詳しく知らないけど、舞ちゃんのお姉さんは舞ちゃんが2,3歳の頃に亡くなったそうよ」
「2,3歳の頃?」
2,3歳の頃に亡くなったという言葉に、俺は酷く違和感を覚えた。普通2,3歳と言えばようやく記憶か残っているかどうかの年頃だ。そんな頃に亡くなった姉を頼りたくなるほど強烈に記憶しているものだろうかと。
「しかし普通、2,3歳の頃に亡くなった兄弟を強く慕ったりするものでしょうか?」
なので、俺はその点に関して詳しく伊吹先生に訊ねてみた。
「そうね、他はどうか知らないけど、舞ちゃんなら慕っても不思議じゃないわ。何でも舞ちゃんは生まれて間もない頃に両親を亡くしたそうだから」
「生まれて間もない頃に両親を!?」
「ええ。舞ちゃんの家には他の親族もいなくて、本当に血が繋がった家族はお姉ちゃんだけだったって話だったわ」
俺は伊吹先生の言葉に驚くと共に、一応納得できた。生まれて間もない頃に両親を亡くし、更には親族もいない。そんな寂しい家庭環境で生まれ育っては、例え幼き時に亡くなった姉でさえ大切に思うのは無理もない話だと。
「だからね、祐一君。舞ちゃんに優しくしてあげてね。あの娘はもう何年も家族の温もりを感じていないんだから……」
「ええ、それは分かってますけど……」
両親はおろか親戚もいないなんて話を聞いたら、今以上に舞先輩と仲良くしなくてはならないと思ってしまう。どうにも舞先輩とはすれ違ってばかりだが、何とかして仲の良い関係を築き上げなくては。
(あれっ、そういえば……)
両親はおろか親戚もいないという言葉に何か引っ掛かるものがあった。何か舞先輩の他にも同じ境遇の娘がいた気がしてならない。
「ところで今の舞先輩は一人暮らしをしているんですか?」
「いいえ。『川澄さん』というご家庭の養子みたいになっているわ」
「えっ!? ということは舞先輩の『川澄』という苗字は?」
「ええ、舞ちゃんの本当の苗字じゃないわ」
川澄姓は舞先輩の本当の苗字じゃない。じゃあ、舞先輩の本当の苗字は? 何だろう、詳しくは覚えていないけど、ずっと昔に舞先輩の“本当の名前”を聞いた気がする……。
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第弐拾五話「the fox and the grapes」
「……」
帰宅し部屋の中に入ると、そこはまるで強盗に荒らされたかのように、周囲に様々な物が散らかっていた。その凄惨たる散らかり振りに、俺は絶句した。
「大きな星が、ついたり消えたりしている……。あはは、大きい……。彗星かな? いや違う、違うな……。彗星はもっとバーって動くもんな……
……なんて言ってる場合じゃねぇ! まぁこぉとぉ〜〜!!」
一瞬精神崩壊しかけた俺だったが、すぐさま正気に戻り、大方の犯人であろう真琴の部屋に怒鳴り込んだ。
「なあっ!?」
勢い良く部屋に怒鳴り込むと、そこには部屋一面に散らかった漫画の中心に気持ち良さそうな顔をしながら無防備な体勢で眠っている真琴の姿あった。
(なんつー体勢で寝てるんだ……。コイツに恥じらいという概念はないのか!?)
真琴は蒲団も被らずに大の字になっている。そう、大の字でだ。大の字というのはつまり両手と両足を広げる体勢のことで、つまり大股が開きの状態で寝ているのだ。
この時点で既に女の子としてどうかと思うが、更に問題なのは真琴がスカートだということだ。スカートをはいた状態での大股開き、それは即ちパンティーが丸見えだというとこなのだ!!
この間寝ている真琴のパンティーを見ようとの欲望にかられ、ギリギリの所で理性が働いたが、まさか真琴の方から大胆に攻めて来るとは。ここは男として真琴の誘いに答えなくては……。
……って、なに かんがえてんだ 俺は! 真琴はただ寝ているだけで、別に俺を誘っているわけじゃない。純情な少女のパンモロを見たことにより、俺の思考は少し混乱してしまったようだ。ともかく、早いこと真琴を起こさないと……。
「さてと、名雪は来そうにないよな……」
俺は廊下に出て周囲に名雪の気配がないことを確認すると、音を立てないようそうっと真琴の部屋のドアを閉めた。
このまま叩きこしてもいいと思ったが、もっと真琴のパンモロを見たいという欲望に負け、俺は匍匐前進で大股開きの真琴の股間を目掛けて進軍した。
「本来ならばゲンコツの一発でもやらないと気が治まらないところだが、今回はこれでカンベンしてやる。寛大な俺に感謝するんだな真琴」
と、これはあくまで制裁であり決して個人的な理由で眺めようとしているわけじゃないと、自身の行為を正当化する理由を頭で思考しながら、俺は進軍を続ける。
「う〜〜む、これはいい眺めだ……」
上手い具合に真琴の股間に顔を潜り込ませ、俺は真琴の下腹部を凝視する。履いているパンティーは縞パンで、決してデザインがいいとは言えないが、この際デザインはあまり気にならない。年頃の少女の生パンティーを眺めるという千載一遇のチャンスに浸れる幸福感の前では、デザインがどうのとかは些細な問題に過ぎない。
「ちょっとくらい、触っても問題はないよな?」
眺めているだけで俺の股間は既にガチガチに硬くなっているが、少しくらいならば触っても問題ないだろうなと思い、俺はスーッと人差し指を真琴のアソコ目掛け伸ばした。
ぷにっ、ぷにっ。
パンティー越しに真琴のアソコをチョッと触る。指先には柔らかみのある真琴のアソコの感触が伝わってくる。
ぷにっ、ぷにっ。ぷにっ、ぷにっ。
一度触っただけで真琴が目覚める気配がなかったので、俺は調子に乗って数回触り続けた。
「ハァハァ……。こうなったら行くところまで行くぞ……」
俺の欲望の暴走は留まることを知らずに、ついに俺は真琴のパンティーを退け、直に真琴のアソコを触ろうとした。このたった一枚の布の先に、夢にまでみた女性の秘部が広がっている……。ネット上の画像で何度か見たことはあるが、本物は一度も見たことない。
この先、生の少女のアソコを見られる機会など二度と訪れないだろう。ならば、俺に迷っている暇はないと、俺は一線を踏み越えようとした……。
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「う〜〜ん……」
しかし、いざ手をかけようとした瞬間、真琴の唸り声が聞こえてきた。い、いかん! さすがに触り過ぎたか!?
グカッ、バキッ! ドッターン!!
「おうわっ!?」
俺は急いで真琴の股間から顔をどけようとしたが、一足遅かった。真琴は開いていた大股をいきなり閉じ始め、更にはその体勢で寝返をりを打った。
これにより俺は真琴の両腿に首を挟まれたまま身体ごと半回転し、大きな音を立てながら床に投げつけられた。
「ぐ、ううっ……」
真琴の首を絞める力は予想より強く、両足をこじ開けようとするもののなかなか上手くいかない。首筋に柔らかい太腿の感触が密着しているこの体勢をもう少し維持したい……何ていう性欲が入り込む余裕はなかった。
「わっ、なになに!?」
突然大きな音がしたのに驚いたのか、名雪が真琴の部屋に近付いて来た。い、いかん! この体勢では俺に弁明のしようがない。何とか脱出しなくては。
「何、してるのかな……? 祐一……」
しかし、善戦の甲斐空しく、俺は真琴の太腿からの脱出が叶わず、とうとう名雪が部屋の中に入って来てしまった。
「ははっ、何って、プロレスだよプロレス。真琴が『キン肉マン』に夢中になっててさ、作中に出て来る必殺技を再現したいからってせがんで来たから、仕方なく付き合ってやったんだ」
などと、俺は見え透いた嘘を吐いてその場を凌ごうとした。
「ふ〜〜ん……」
案の定付け焼刃の言い逃れは名雪に通用せず、名雪は疑心暗鬼な目で俺を睨み続ける。
「ほ、本当だぞ! ほら、これがその漫画だ! この漫画が何よりの動かぬ証拠だ!!」
と、俺は偶然目の前に散乱している漫画を無作為に拾い上げ、名雪の目の前にかざした。手に取った漫画本は恐らく『キン肉マン』ではないだろうが、上手く誤魔化せば漫画をよく知らない名雪の目を欺けるかもしれない。
「本当に“それが”『キン肉マン』って漫画なの……?」
「ああ! 今から該当箇所を読んでみるから信用するんだぞ!?」
俺は錯乱した頭で適当にページを開き、大声で音読を始めた。
「『無駄だ嶋鳥 耐えれば耐えるほど固くなるぜ!!』……って、『幕張』じゃねぇかコレ! なに よんでんだ 真琴の奴!!」
俺は勢いよく『幕張』の単行本を床に叩きつけた。何かの格闘漫画の必殺技を叫べば名雪を誤魔化せると思ったが、よりによって手に取った漫画が『幕張』で、大声で読んだシーンが奈良が奈良づくしを発動しているシーンとは……。これでは名雪の誤解を解くどころか、ますます猜疑心を強めてしまう。
しかし真琴の奴、本当になんつー漫画を俺の部屋から持ち出してるんだ!?
「ふ〜〜ん、その漫画、『幕張』って言うんだ〜〜……」
し、しまった!? つい勢いに乗って漫画のタイトルを口ずさんでしまった。こう墓穴を掘ってしまってはもう弁明のしようがない。素直に自分の負けを認めよう。
「ふああ〜〜」
そうしようとした矢先、真琴があくびをしながら目覚めた。
「わあ〜〜祐一だ〜〜。お帰り、祐一〜〜」
真琴は俺が帰って来たのがよっぽど嬉しかったのか、目覚めるや否や俺に抱き付いて来た。
「祐一、祐一〜〜」
真琴はまるで父親に甘える子供のように俺にベッタリとくっ付き離れようとしなかった。
「ふふっ。祐一はどうか知らないけど、少なくとも真琴ちゃんは祐一を慕ってるみたいだね」
純粋無垢な真琴の行動を邪魔しては悪いと思ったのか、名雪は一言言って部屋から出て行った。名雪の誤解が解けたかどうかは怪しいが、とりあえず危機から脱したことに俺は安堵した。
「祐一〜〜、祐一〜〜」
「いい加減そろそろ離れたらどうだ、真琴?」
胸の柔らかい感触が伝わり続けるのは決して悪いことではないが、いつまでもこの状態でいるのはさすがに体裁が悪いので、俺は真琴に離れるよう促した。
「やだぁ〜〜もうちょっとこのままでいるの〜〜」
しかし、真琴は一向に俺の話を聞かずに抱き続ける。俺はもう観念して、真琴の気が済むままに抱かれることにした。
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「いいか? 俺の部屋の漫画を勝手に持って行くのは一応許すが、読んだ本はちゃんと元に戻して置くんだぞ?」
俺は真琴が抱き付き終わった後、俺の部屋から勝手に持って行った漫画本を元に戻すよう指導した。
「あう〜〜、そんなのめんどくさいわよぅ」
「こら! 面倒臭いって言うのなら、漫画を貸してやらないからな!!」
「あう〜〜、わかったわよぅ。元にもどせばいいんでしょ、元にもどせば」
真琴は渋々俺の言葉に従って、部屋に漫画本を戻し始めた。
「あう〜〜。え〜〜っと、この本がここで、この本が……」
真琴はどの棚から本を拝借したのか意識してなかったようで、漫画を手に数冊抱えたまま右往左往していた。
「いいか、この漫画はここで、この漫画はあそこだ」
俺は漫画の位置と順番通りに並べることまで教えて、あとは真琴に任せることにした。ここで全部俺が元に戻したら、以後も真琴は自分で片そうとしないで俺に頼ることだろう。だからここは敢えて心を鬼にして真琴を躾けなければならないと、俺は思った。
(しかし、本当に恥じらいというものがないのか真琴には……)
本を片そうとああだこうだ動いている中、真琴のスカートが何度かヒラヒラとはためいた。俺はその一瞬一瞬をすべて見逃さずに、真琴のパンチラを観察し続けた。
普通これだけパンチラを狙っていれば何かしらの嫌悪感を抱くはずなのだが、真琴にはそんな気配が全くない。俺の視線が気にならないほど片付けに夢中になっているのかもしれないが、先の寝相といい、真琴にはどうも恥じらいという概念がない気がしてならない。
「あう〜〜、ようやく片付け終わったぁ」
十数分後、ようやく真琴は俺の部屋から持って行った漫画全てを元の位置に戻した。本を元に戻すという単純作業でさえ真琴にとっては大仕事だったのか、真琴は片付け終わるとヘナヘナと尻餅をつき始めた。
「よしよし、よく頑張ったな」
俺は労いとばかりに、真琴の頭を軽くなでなでしてやった。
「あうーー」
すると、真琴は幸福に満ち溢れた顔で微笑んだ。
「そんなに気持ちいいのか?」
「うん! 祐一に頭なでられるの大好き〜〜」
バサッ
「おわっ!?」
そう言いながら真琴は勢いよく俺に抱き付いてきた。
「祐一〜〜なでなで、なでなで〜〜」
「やれやれ。抱き付くだけじゃ物足りなくて、その上にナデナデか。どこまでも甘えんぼな奴だなお前は」
そう苦笑しながらも、俺はそれも悪いことじゃないと思った。何だろう? ずっと前にこういう感じに“真琴”を可愛がったことがある気がしてならない……。
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「ごちそうさまっ! マンガのつづき読もうっ〜〜と!!」
真琴は夕食を取り終えると、ドタドタと音を立てながら2階へ登って行った。
「読んだ漫画はちゃんと元の場所に戻しておくんだぞ〜〜」
「わかってる〜〜」
「やれやれ。秋子さん、真琴の身元に関して、何か分かりましたか?」
俺は真琴が2階に上がったのを確認すると、秋子さんに真琴のことに関して聞き出した。真琴が水瀬家で居候するようになってから数日経つが、未だ本人が自分の身元を語ることはなかった。
秋子さんは時間をみつけて真琴の身元を探していたとの話だったので、何か進展はあったのかと俺は訊ねてみた。
「ええ、そのことなんですけど……」
秋子さんは真琴の名を出すと、少し渋ってから口を開き始めた。
「私一人の力じゃ限界があるから、雪子さんに相談してみたの。隆一さんと雪子さんなら政界その他にも顔が広いからと思って」
「父さんと母さんに!?」
父さんと母さんに頼るのはいささか大げさな気もするが、確かに政界やら財界にそれなりに顔が広い二人なら、頼りになることは頼りになる。
「それで父さんと母さんから何か連絡は?」
「ええそれが、雪子さんが警視庁のお知り合いとかに行方不明になっている娘がいないか訊ねてみたんですって。そしたら……」
そこまで言ったら、秋子さんは口をつぐんだ。
「どうかしたんですか? 秋子さん」
「いえね、このことはあまり大きな声で言えないことだから、これから私が言うことは名雪も祐一さんも黙っててくれるかしら……?」
「わたしは構わないけど」
「俺も構いませんよ」
「そう……。なら話すわ……」
秋子さんは俺と名雪の同意を得てから静かに語り出した。
「そしたら雪子さんの所に連絡があったそうよ。公安の赤坂さんという刑事さんから……」
「こ、公安っ!?」
公安と言えば、主に思想犯やらテロリストの捜査を行う一種の特務部隊だ。そんな所から電話がかかって来るなんて……。
「ん? “公安の赤坂”……?」
「どうしたの、祐一?」
「いや、何かどこかで聞いたことがあるような……」
少し考えた後、俺はハッとして自室に駆け上がり、一冊の本を持って来た。
「秋子さん、もしかしてその人、『ひぐらしのなく頃に』の著者の一人の、赤坂衛さんじゃないですか?」
『ひぐらしのなく頃に』、それはつい先頃出版された、約15年前に岐阜県鹿骨市雛見沢で起きた災害を取り扱った調査本だ。帝都からこちらに来る際タイトルと趣旨に惹かれ社内で読む本にと買ったものだ。
「ひぐらし」は、赤坂衛という現職の公安刑事と、大石蔵人という元刑事による共著で、秋子さんが言う赤坂さんとはその著者の片割れではないかと俺は訊ねてみた。
「ええ……。その赤坂さんという方だったわ」
「何でそんな人から……。まさか!?」
「ええ、そのまさかだと思うわ。何でも赤坂さんが捜査している雛見沢大災害の行方不明者の一人に、“沢渡”という女の子がいるって話だったわ……」
「!?」
雛見沢大災害、それは雛見沢で起きた災害の総称だ。「ひぐらし」によれば、発生は昭和58年6月21日から22日にかけての深夜。見沢地区水源地の一つ・鬼ヶ淵沼直下のマグマ溜りと温泉より、猛毒の火山性ガス(硫化水素 二酸化炭素)が噴出。ガス流となって数時間をかけて村内全域を覆いつくし、死者1,200余名、行方不明者20余名を出し、周辺自治体から約60万人が避難することとなった未曾有の大災害、とのことだった。
ただ、それはあくまで政府の公式見解であり、中身はまだ詳しく読んでいないので分からないが、目次によれば本書では「オウム以前に起きた大規模な科学テロではないか」との仮説を立てているようだった。
しかし、理解に苦しむ。岐阜と岩手じゃ距離があまりに離れているし、雛見沢での行方不明者がこんな所にいるわけ……
いや、待てよ! 仮に「ひぐらし」に従って雛見沢大災害が災害ではなくテロだったとしたら、その実行犯達は未だ捕まらずに存在し続けていることになる……。
ここからは完全に俺の想像になるが、もし真琴がテロの生き残りだったら、実行犯にとっては厄介者となる。だから真琴は実行犯から逃れる為遠い岩手まで逃げ延びて来たということにはならないだろうか……。
いや、いくらなんでもそれは考え過ぎか。事件は15年も前の話しだし、当時真琴は生まれて間もないはずだ。事件当時赤ん坊だった者をいくらなんでも厄介者とは認識しないだろう。
第一、真琴は俺を慕っている。俺を慕っている真琴がそんな事件の関係者のわけない。
「馬鹿馬鹿しい、真琴が大災害の行方不明者のわけないでしょう」
以上の持論から、俺は真琴はその行方不明者とは無関係だと結論付けた。
「ええ、私もそう思うわ。ただ、少しでも可能性を追求したいからって、その刑事さん、2,3日後にこちらに来るそうよ」
「ええっ!? こっちに来るんですか!?」
「大丈夫。対応は私がするから。それに、個人的に頼みたいこともあるし……」
「個人的に頼みたいことって、何ですか秋子さん?」
「あの人の消息よ……。地元の警察は自殺と認定して捜査を打ち切ったけど、公安の刑事さんなら地元の警察とは違う見解を示すかもしれないと思って。
可能性は低いでしょうけど、私もその刑事さんのように残された僅かな可能性に賭けてみたいのよ……」
そうだった、秋子さんはまだ諦めていなかったんだ。警察に自殺と認定されても尚、春菊さんの生存を頑なに信じているんだった。その想いはもう、希望というよりも信念の位まで昇華した想いなのだろう。
そしてそれは、雛見沢大災害の真相を追い求める赤坂さんも同じなのかもしれない。秋子さんと赤坂さん、真相を掴もうとする二人が力を合わせれば、真琴の身元も春菊さんの生死も分かる気がしてならない……。
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「てめらに今日を生きる資格はねぇ! あた! あた! おあわたっ!! ひでぶっ! あべしっ!」
「あう、あうー!!」
僕が漫画を声を出しながら読むと、真琴はあうあうととっても喜んでくれたんだ。僕も真琴が喜ぶからって、家にいるときはずっと真琴に漫画を聞かせてやったんだ。
「ねえ、祐一?」
そんな時、名雪が部屋に入って来て声をかけて来たんだ。
「何だよ、今いいところなのに」
「ねえ、本当に真琴って名前、思いつきの名前なの? 知っている女の人の名前だったりするんじゃないかな?」
「しつこいなぁ〜〜。思いつきだって言ってるだろ!!」
名雪は真琴の名前がだれかの名前をつけたんじゃないかって、しつこく聞いてくるんだ。だから僕は、思いつきだって答え続けたんだ。
「う〜〜。もういいよ! 祐一のバカッ!!」
名雪はよく分からないけど、プンプンと怒りながら部屋から出て行ったんだ。
「まったく、本当にしつこいなぁ名雪は」
僕は真琴と布団でいっしょに寝ながら、真琴に声をかけたんだ。
「あう〜〜……」
「なんだ、ひょっとしてお前も名前の意味を知りたいのか?」
「あうっ、あうっ」
僕が真琴に話しかけると、真琴はまるで僕の言葉を分かったように返事してきたんだ。でも困ったなぁ。お姉ちゃんには誰にも話さないでねって言われてるしな〜〜。
「まっ、いいか。真琴は人じゃないもんな。よしよし真琴、教えてやるぞ、お前の名前の意味を」
そうして僕は、真琴に名前の意味を話したんだ。
…第弐拾五話完
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※後書き
| え〜〜、すみません。前回の後書きでほのぼのとした話になるとか書きましたが、あんましほのぼのしてませんでしたね。て言うかチョイエロっていうノリでした(笑)。
本当は今回あゆを出すつもりだったのですが、尺の関係で登場させませんでした(苦笑)。この作品って基本的にあゆエンドなのですが、メインヒロインであるあゆが10話も顔を出してないという状況になってますね(笑)。
さて、ようやく「ひぐらし」の固有名詞が出て来ましたね。「ひぐらし」とのクロスオーバーは完全な後付なんですけど(笑)、この作品を加えたことにより、話の幅が広がったと思ってます。単に風呂敷を広げ過ぎな気がしないでもないですけど(笑)。 |
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